有事の円買い
リーマンショックやコロナショックで株価が大きく下落する局面(いわゆる、リスクオフ局面)では、円高ドル安が進行します。つまり、有事には日本円が買われているわけですが、この原因は何でしょうか。
海外資産を売って円に換える?
人は自国が安全と考える傾向があり、これをホームカントリーバイアスと呼びます。
有事に円高が進む理由として良くある説明としては、「日本人が有事の際に、海外資産(例えば米株)を売って、(日本人が安全と考える)日本の資産に乗り換えるから」、というものがあります。
米株を売ればドル売りに、日本の資産を買えば円買いになります。
日本は世界で最も、海外に資産を保有していますので、日本人が上記の行動を行えば、有事に円高が進む理由になります。
実は、有事に日本人は、海外資産を売っていない
ただし統計を見ると、日本人が株安時などに海外株を売って、日本の資産を買っているような証拠は見当たりません。
有事に円高となる本当の理由
日本では他国と比べて、家計や会社の現金保有比率が高いです。
つまり株安になっても、日本という国(家計や会社)が保有する資産の価値が下がりにくいため、日本という国の価値を代表する日本円の価値も下がりにくい(他国の通貨価値が大きく下がる中では、むしろ日本円は上昇)することが、有事に円高となる一因だと考えられます。
なぜ日本人は安全資産(現金・貯金)を多く持つ?
日本人が現金、貯金を多く保有するのは、安全志向の国民性だけが原因ではありません。
日本では海外に資産を多く持ち、毎年、海外から多くの収入を得ています。
つまり、日本人の財布(少なくとも日本全体でみると)には、お金が入り続けている状態にあるため、投資をする必要性が低かった訳です。
その結果、投資に関する教育も不十分となり、国民全体として投資をしない、資産のほとんどは現金・貯金、という状態が出来上がりました。
今後も有事の円買いが続くか
少子高齢化や、Amazon、Googleといった海外企業の台頭により、日本の競争力は低下しています。その結果、日本人の財布にお金が入り続けるといった状態も長続きしないかもしれません。
そうすると、日本人が投資をせざるを得なくなる(老後2000万円問題もそうですね)ことになり、株価下落時には日本人の資産が相応に痛むことになります。
その結果、株安時には日本の価値、つまり、日本円の価値も下がり、有事の円高、ではなく、有事の円安、となる可能性もあります。
ただし日本が保有する海外資産が急激に減る訳でもなく、日本の景気減速は緩やかなペースで進んでいくということを踏まえると、今後数年~10年程度の期間で見ると、有事に円高になる度合いが減る(有事に円高にも円安にもならない)、といった状況がせいぜいかと思います。
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