半導体不足が金利上昇要因に?
世界的な半導体不足は、実体経済に様々な影響を与えています。
例えば、以下のような経路で、半導体不足の影響が波及しており、半導体不足がインフレ率や長期金利を押し上げています。
半導体不足で新車が作れない & 半導体の価格高騰で新車の価格も高騰
↓
中古車の需要増加
↓
中古車価格高騰
↓
米国のCPIを大きく押し上げ
↓
インフレ上昇懸念&テーパリング懸念
↓
米金利上昇
半導体不足が解消する兆し
コロナ後に深刻化した半導体の供給不足が、解消される兆しが見えてきました。
実際、半導体の設計・製造・流通・販売を行う米企業30社で構成される「フィラデルフィア半導体株指数」が8月に入り下落に転じています。
また8月10日に台湾のハイテク関連調査会社『TrendForce』が、2021年10~12月期において、DRAM価格(注)が下落する見通しを公表しました『Contract Prices of PC DRAM Expected to Decline by 0-5% in 4Q21 as Spot Prices of DRAM Modules Continue to Weaken, Says TrendForce』。
(注)DRAM(ダイナミック・ランダム・アクセス・メモリ、ディーラム)は、コンピュータなどに使用される半導体メモリによるRAMの1種で、チップ中に形成された小さなキャパシタに電荷を貯めることで情報を保持する記憶素子
『DRAMeXchange』ではDRAM価格の推移をみることが出来ますが、2021年7月に入り、DRAM価格がピークアウトしていることが分かります。
半導体不足の解消で恩恵を受ける株
半導体不足が解消し、十分な半導体が供給され、かつ、高騰していた半導体の価格が落ち着く場合、恩恵を受けるのは半導体を使ってモノを作っている会社です。
その代表例としては、半導体を多く使う自動車メーカーです。後述の通り、自動車メーカーが今回の半導体不足の一因ですが、電気自動車(EV)の普及により、一段と多くの半導体が自動車で使われています。
アップルといった、スマホを製造する会社にとっても、半導体不足の解消は望ましいことです。アップルは2021年7月27日、4~6月期の業績を発表するとともに、CEOのティム・クック氏は、半導体不足がiPhoneに与える影響について次のようにコメントしました。
「アップルのいくつかの製品で使われている最新の半導体に関しては、(供給の制約が)それほど問題になっていない。ただ、シリコンウエハー上のレガシー半導体に関しては、制約の影響を認識している」
つまりiPhoneで使われている部品のうち、新しいものについては、半導体不足の影響はないが、以前から使っている部品については、悪影響が出ている(半導体不足でiPhoneの部品が生産できない)と述べています。
半導体不足の解消で、特に大きな恩恵を受けるのは、車や電化製品を製造する会社のうち、規模が比較的小さな会社であると言われています。
上記でAppleの例を挙げましたが、Appleは自社でも半導体を作っているほか、世界で最も時価総額が大きい企業なので、半導体を優先的に仕入れることが出来ます。つまり、Appleが半導体不足の悪影響を受けるとしても、中小の電化製品メーカーと比べれば、「大分マシ」といえます。
よって、半導体不足の解消による株価上昇を狙うなら、中堅、中小の自動車メーカー、電化製品メーカーが狙い目です。
半導体不足の解消で悪影響を受ける株
上記の通り、2021年7月から、半導体不足の解消が近づいていることが意識されてか、 「フィラデルフィア半導体株指数」 がピークアウトしています。
つまり半導体不足の解消で悪影響を受ける株は、半導体の製造会社です。
半導体の出荷量が増えることは、半導体メーカーの売り上げ増に繋がりますので、必ず半導体メーカーにとってネガティブに働くとも言えません。
ただし、半導体価格の下落で、利益率が悪化する(通常の状態に戻る)ことを踏まえると、収益面ではやはり、半導体メーカーにとっては、半導体の供給制約解消は、ネガティブに働くといえるでしょう。
○2020年半導体売上高ランキング
1.米インテル
2.韓国サムスン
3.台湾TSMC
4.韓国SK Hynix
5.米Micron
11.台湾MediaTex
12.日本キオクシア
13.米Apple
出所:米IC Insights
株式市場全体への影響
半導体不足の解消は、株式市場全体にとってはポジティブといえます。それは半導体の不足が解消することで、企業の生産活動が再開するためです。
また半導体不足がインフレを押し上げたことで、Fedといった各国中銀の緩和縮小を後押しした面があります。半導体不足の解消でインフレが低下すれば、中銀の緩和姿勢が長期化することになり、やはり株価にとってはプラスといえるでしょう。
ハイテク株に関しては、半導体メーカーも含まれるため一概には言えませんが、半導体メーカー以外のハイテク企業は、生産の再開が業績を押し上げるでしょう。
そもそも半導体不足の原因は?
そもそも、なぜ半導体が不足したのでしょうか。コロナ、中国、自動車がキーワードです。
新型コロナを受けて、半導体メーカーは自動車の生産が減少することを予想し、半導体の生産を減らしました。
しかし中国では思いのほか早く、コロナの感染が収束したほか、国策として電気自動車(EV)の生産、利用を推進したため、中国の自動車向けに、半導体の需要が急増しました。
タイミングが悪いことに、2021年2月に米国テキサス州を襲った大寒波や、2021年3月には日本のルネサス エレクトロニクスの主力工場で発生した火災により、半導体工場の稼働停止も相次ぎました。
半導体が足りないなら、半導体の生産を増やせばいいのでは?
半導体が不足しているなら、半導体の生産を増やせばよいように思えますが、半導体は通常、材料を投入してから製品が出来上がるまでに3カ月以上かかります。
また半導体メーカとしては作り過ぎて損するという事態は避けたい一方で、今後のコロナの動向次第で半導体需要の需要が大きく変わりえる中では、メーカーは半導体を作り過ぎない、という保守的な選択を行います。
これらが絡み合って、半導体不足がなかなか解消しませんでした。冒頭で述べた通り、台湾のハイテク関連調査会社『TrendForce』が、2021年10~12月期において、DRAM価格が下落する見通しを公表しましたが、半導体不足は来年以降も続く可能性もあるでしょう。
コメント